日替わり NAT’s Champloo

音楽やライブ(HM/HRやボカロなど)、旅行など、ごちゃっとした日記

「冨田勲×初音ミク 無限大の旅路 〜イーハトーヴ交響曲〜」東京公演に行ってきた

イーハトーヴ交響曲の花巻公演に行ってきたのに、また東京公演まで見に行ってきました。
今回の公演にはエンジニアが同伴して、初音ミクのシステムがブラッシュアップされていたり、東京公演だけの特別演出があったりして、もう一度見に行く価値がありました。

会場へ

当日は台風が近づいている中ということで、雨合羽を着たりと、完全防備で家を出た(行かないという選択肢は最初から無かった)。でも、台風が関東の北側を通過した影響か、風は強くとも、雨はそれほど強くならなかった。
会場のオーチャードホールの最寄り駅渋谷駅に着いた頃には、風は強いが、雨はほとんど止んでいた。
しかし開演は、台風の影響で、予定の13:30から30分遅れて14:00開演となった。

開演

席は、前から3列目の左端に近い席。端っこなのが残念だったが、ステージには近いので、演奏者や初音ミクの映像がよく見えたのは良かった。
演奏の第一部は、冨田勲さんの名曲を演奏ということで、「新日本紀行」、山田洋次監督映画音楽のメドレー、ジャングル大帝の曲、大河ドラマ勝海舟」メインテーマを演奏。

演奏後、指揮者の河合尚市さんと冨田勲さんが壇上に上がり、イーハトーヴ交響曲について語るコーナーが始まった。でも今思い返すと、冨田さんは初音ミクのことを半分以上語っていたような気がする(笑)。

人形浄瑠璃や飛騨からくり人形といった作り物に魂を込めるという事を、日本人は昔からやってきているが、初音ミクはその電子版なのだと、冨田さんは語った。初音ミクを使っているうちに、不思議と人格を感じるとも語った。ボカロファン・初音ミクファンの自分は、その言葉を内心頷きながら聞いていた。
横浜でのマジカルミライのコンサートのことを語ったり、初音ミクが可愛いなんて言ったりと、初音ミクを知らない人には説明がないと付いていけない話なんじゃないかと思いつつも、冨田さんもすっかり初音ミクにはまってしまったのだなあと、微笑ましく(失礼!)見ていた。

指揮者の河合尚市さんも、ゲネプロを繰り返すうちに初音ミクさんが可愛く思えてきたと言っていた。ああ、ここにも初音ミクのファンがまた一人生まれてしまったようだ。

それにしても、冨田勲さんが初音ミクを使い、語るというのは、初音ミクを正しく世の中に理解してもらうには、なんと頼もしい味方だなとあらためて感じた。

イーハトーヴ交響曲

休憩を挟んでの第二部は、イーハトーヴ交響曲の演奏。イーハトーヴ交響曲の生演奏を聞くのは、これで三度目。それでも、初音ミクが登場するシーンは少し緊張してしまう。指揮者の指揮に合わせて歌い踊るという、技術的にはチャレンジングな試み。もしかしたら、うまく合わないかもしれないし、実際少しずれる場面も花巻公演ではあった。

そして初音ミクが始めて「注文の多い料理店」で、まさかの初音ミクが出られないトラブルが起きた。歌っている声は聞こえるが、ステージ後方のスクリーンに初音ミクの映像が出ない。もしかしたら、声だけで姿は見えないという演出なのかと思ったが、それも違うようだ。

ハラハラしながら演奏を聞いていると、指揮者の河合さんに近づく人影。冨田勲さんだ。手を振ったりしているが、河合さんは気付かない様子。そして手を叩いて、気付いてもらおうとする。すると、河合さんは手で制するようなジェスチャーで、気付いている事を伝える。しかし演奏はしばらく続く。そして曲のキリの良い所で、指揮棒を前に突き出しながらゆっくり動きを止め、演奏を止めた。
作曲者が演奏を止めるために指揮者に呼びかけ、指揮者が曲のキリの良い場所で止めるという、なんとも貴重な場面が見られた。見ているこっちは、演奏が止まるまでハラハラしたけれど。
冨田勲さんが演奏を止めに指揮者の所へ行ったこの一幕は、後々まで語りぐさになるのだろうな。オーケストラのコンサートで、作曲者が演奏を止めたというのは、なかなか無いトラブルだろう。

演奏が止まった後、スタッフがトラブルの解決に走り回る。河合さんは、観客に状況を説明して、本当は初音ミクの映像が出るはずが現れなかったというトラブルが起きたという事を伝え、「台風のせいでしょうか」という冗談で観客を笑わせたりした。
この待ち時間を使って、河合さんは今回の初音ミクが指揮者に合わせて歌い踊る仕組みを説明しようとしたが、思ったより早くトラブルは解決し、その説明が終わる前に演奏再開することになった。個人的には、その説明を最後まで聞きたかったのだけど、あまり観客を待たせて間延びさせるのも良くないので、仕方ない。

そして演奏再開し、初音ミクも無事姿を現して歌ってくれた。花巻公演の時でも、初演の時よりも歌や踊りがスムーズになっていたが、東京公演ではさらにブラッシュアップされたようだ。特に踊りは、映像がカクカクする場面が圧倒的に減った。そして、セガに提供してもらった初音ミクの3Dモデルは、やはり見映えが良い。近くで見ると、細かい動きや表情も見えて、魅力的に見える。

今回の演奏で特筆すべきは「銀河鉄道の夜」だろう。この曲の幻想的な雰囲気と、初音ミクの高音ボーカルがマッチした素敵な楽曲というのもあるが、この日の公演ではステージの壁面に銀河鉄道の夜をイメージした幻想的な映像が投影されていた。
この映像には、見覚えがあった。2013年7月22日に六本木ヒルズ森美術館で、冨田勲さんのトークセッションがあったのだが、そこで冨田さんが言及した動画があった。

Googleで「イーハトーヴ交響曲」で動画検索すると上位に来る、銀河鉄道の夜をテーマにした映像と、イーハトーヴ交響曲の演奏の音を勝手に組み合わせて、どこかの誰かが作ったMAD動画。そこで使われた映像が投影されたのだ。
これはおそらく、この動画を評価していた冨田さんのアイデアで実現したのだろう。なんというか、二次創作が公式化しちゃった感とか、冨田さんからの動画作者への粋な返礼とか、そんな感覚に襲われて感激してた。生の演奏と映像が組み合わさった美しさもあいまって、ただの感激ではすまなくて、体を軽く震わせながら泣いてた。

そして「雨にも負けず」は、大合唱団の大きい声量による迫力が素晴らしかった。この交響曲初音ミクがプリマの曲であろうと、この曲だけは生きている人間が力強く歌わねばならない。

最後の「岩手山の大鷲」。初音ミクの声の入りが少しずれる。ここは、花巻公演でもうまく合わなかったが、合わせるのは難しいのだろうか。
公演後、公演に来ていた知り合いにこの話をしたら、曲の立ち上がりは、テンポを0から一気に立ち上げないといけないので、テンポを合わせるのが難しいのではないかという意見が出てきた。確かにそうかもしれない。初演の時は、鍵盤を押したらすぐ声が出る仕組みだったようだが、今回はテンポをシステムに伝える仕組みらしい(推測)ので、技術的な課題があるのだろう。

アンコールとカーテンコール

アンコールでは、初演と同様「リボンの騎士」で初音ミクが歌い踊った。高解像度の3Dモデルや投影の質のためか、初演で見た時より表情豊かに踊っているように見えた。なんだか、初音ミクライブコンサートの一幕を見ているような雰囲気。
カーテンコールでは、観客の拍手や壇上に上がった冨田勲さんの招きに応えて、初音ミクも登場。ちょこんとお辞儀したり、手を振ったり、ぴょんと跳ねたりと、交響曲のプリマという大役を終えて、素の16才の少女に戻ったかのような可愛らしい姿を見せてくれた。

感想

オーケストラと大合唱団の演奏を生で聞く迫力は、やはり何度聞いても良いなあと。初音ミクの歌唱と躍りも、花巻公演で見たときよりも着実に改善されてて良かった。
その一方で、初音ミクをオーケストラと一緒に歌わせるには、まだ技術的な課題が残る事が分かる公演でもあった。映像が出ないトラブルしかり、曲の始めで声の入りがずれる事しかり。
そう言う意味では、すぐは無理でも数年後にまた再演して、この課題に挑戦して欲しいと思う。別に「イーハトーヴ交響曲」ではなく、また別の新曲でも良いんですけど、難しいかな…。
いずれにせよ、ここで作り上げた技術がここで終わらず、続いて欲しいと思う。