冨田勲新制作「イーハトーヴ」交響曲世界初演公演 | Billboard Classics | Billboard-CC
冨田勲さんのイーハトーヴ交響曲公演に行ってきました。
シンセサイザー音楽作家の第一人者でもある冨田勲さんが、新作の交響曲に初音ミクを使ったということでも話題になった公演。指揮者に合わせて初音ミクが歌い踊るという新しい試みもあるとの告知もあった。これは歴史的な演奏会になりそうという予感を感じて、発表直後に即チケットを予約したのでした。
開演前
会場は東京オペラシティコンサートホール。クラシックのコンサートは初めてだったので、服装に迷った。ドレスコードは無かったが、さすがにGパンは演奏者に失礼かと思い、ジャケットとスラックスの少しフォーマルな服装にした。
開場時間になり会場入ったところ、さっそく物販の初音ミクグッズに行列ができてた。開演まで30分しかなく、並んでいる間に開演時間になりそうだったので、諦めることにした。
開演後
演奏会の序盤は、以下の3曲を演奏。
山田洋次監督映画音楽メドレーの後、指揮者の大友直人さんと冨田勲さんがステージ上でイーハトーヴ交響曲について話をされた。イーハトーヴの歌には、この世のものとは違った四次元的な声が必要と考えていて、それに合った声として「初音ミクさんに歌ってもらった」とのこと。大友さんも言っていたが、新しい音だから使ったのではなく、その曲に必要だから初音ミク使ったという話に感心した。
今回、初めてオーケストラのコンサートを生で聴いたのだけど、勇壮でドラマティックなオーケストラの音は良いなあと、大河ドラマ「勝海舟」のテーマを聴きながら思った。
休憩
イーハトーヴ交響曲の演奏前に20分間の休憩。トイレに行こうとホールを出たら、ちょうど物販もやってて行列も短かったので、それに並ぶことに。当初は、冨田勲さんの直筆文字が印刷された湯飲みだけ記念に買うつもりだったが、ここでしか買えないからとTシャツも勢いで買ってしまう。
行列がなかなか進まなかったので、買い終わった頃には演奏再開間近で、あわてて座席に戻った。
イーハトーヴ交響曲
イーハトーヴ交響曲は、宮沢賢治作品をモチーフに作られた交響曲。以下の7つの曲から構成される。
「注文の多い料理店」「風の又三郎」「銀河鉄道の夜」「岩手山の大鷲」で初音ミクの歌声が使われた。日本フィルハーモニー交響楽団によるオーケストラ編成に加え、合唱団が後ろに控えていた。合唱団は、少年少女合唱団や大学合唱団、大学OB合唱団と男女と年齢が入り交じった大合唱団。
初音ミクを指揮者に合わせて歌わせる仕組みは、演奏後に聞いた情報によると、指揮者の前にいるキーボード奏者のキーボードの鍵1つ1つに、初音ミクの声のフレーズを割り当てて、タイミングに合わせて声を出す仕組みだったらしい。
初音ミクの映像は、楽団のいるステージの後の壁の上方、パイプオルガンのある位置にスクリーンが設置され、そこに投影されていた。3DCGにMMDモデルのTda式ミクが使われ、歌のタイミングに合わせて動いたり踊ったりしていた。
特に印象に残ったのは「銀河鉄道の夜」の演奏。チューブラーベル(いわゆるNHKのど自慢の鐘)の音に続いて、初音ミクが「カランコロン」と高音で歌うオープニング。初音ミクの歌声が、あの世なのか宇宙の向こうなのかは分からないけれど、この世ではない場所から聞こえてくる歌声のように思えて、すごく印象に残っている。人間の合唱団の歌声に混じって歌っていたからこそ、余計にそう感じたのかもしれない。
小説「銀河鉄道の夜」を読んだとき、この小説に登場する銀河鉄道はこの世でない場所へ向かう鉄道だと自分は解釈した覚えがあるのだが、その鉄道の発車を知らせる鐘の音と、この世で無い場所から聞こえる歌声を、このオープニングは表現しているように聞こえた。
オーケストラのストリングスの音色と合唱団のコーラスが美しく、幻想的な曲でもあった。
初音ミクは登場しなかったが、「雨ニモ負ケズ」の詩を一斉に合唱する「雨にも負けず」の演奏も、感動的で良かった。
交響曲の最後の曲となる「岩手山の大鷲」では、合唱団の歌声に初音ミクの歌声が重なるパートもあった。人間の合唱団とVOCALOIDが生演奏で一緒に歌うのは、これが初めてなんじゃないだろうか。もう少し綺麗に歌声が重なると良かったが、人の歌声と機械の歌声による合唱という未来を垣間見せてくれた気がする。
アンコール
アンコールは「リボンの騎士」と「青い地球は誰の物」。「リボンの騎士」は、おそらく初音ミクのファン達へのサービスだと思っているが、初音ミクが歌う「リボンの騎士」。これは凄く嬉しいサプライズだった。交響曲本編では、初音ミクはあくまでオーケストラの一員だったが、この曲では主役と言って良かった。初音ミクがサファイア姫の大きな帽子を頭に載せ、日本フィルという豪華なオーケストラ演奏と合唱団をバックに歌い踊る、晴れ舞台。以前から初音ミクを追ってきていた自分からすると、ここまで立派に成長したのかと娘の成長を見る父親のような心境で、これにはジーンと来た。
トークイベント
公演後、初音ミク/ボカロ界隈の知り合いと一緒に食べに行った。その後、タワーレコード渋谷店でのトークイベント「『イーハトーヴ交響曲』の全貌〜冨田勲×宮沢賢治×初音ミク」へ行く。そこで冨田勲さんやクリプトン伊藤社長による、今回の公演の裏話も聞けた。初音ミクを指揮者に合わせて歌わせる仕組みの苦労話も出てきた。
時間の都合で、話が中途半端な形で終わってしまったのが残念。もっと色々話を聞きたかったな。
公演を終えて
今回のイーハトーヴ交響曲公演、素晴らしい演奏が聴けたコンサートでした。クラシックはあまり聞かないジャンルなので、偉そうな事は言えないのだけど、まだまだ改善の余地はある実験作に近い点はあるなと感じた。もちろん今のままでも十分素敵な演奏だったのですが、合唱団と初音ミクの声のからめ方はもう少しうまく響くように調整できそうです。初音ミクの調声も、様々な神調教と呼ばれるようなボカロ曲をいくつも聞いている耳からすると、もう少し頑張って欲しいと思う。また初音ミクの映像も、何も無いところにあるスクリーンに投映している感じではなく、ミクパ♪の2段スクリーンの上段のように、高台に立っているような見せ方ができれば、もう少し実在感も出せたのではないだろうか。
というように改善の余地はいくつかあると思っているけれど、VOCALOIDとオーケストラの融合という未知の領域に挑戦した冨田勲さんは、素晴らしい仕事をしたと思う。その先にある可能性を感じさせた意義は大きいと思っている。その先を、冨田勲さん本人がやるのか、他の誰かがやるのかは、まだ分からないけれど。
この公演後にふと思い出したのは、2009年のミクFES'09(夏)のこと。この時は、初音ミクというバーチャルシンガーのライブが実現した歴史的瞬間に立ち会えたと思ったのだが、今回はバーチャルシンガーがオーケストラと一緒に演奏するという歴史的瞬間に立ち会えたのではないかと思っている。
ボカロファンとしては、今回の公演をきっかけに今後どんな新しい動きが出てくるのか、そこが楽しみです。